防災力UP工房の沢戸です。
2011年3月11日14時46分に発生した東日本大震災から14年が経過しました。この地震や津波で東北3県を中心に多くの人命が奪われ、福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染や計画停電など、さまざまな災害リスクが同時に発生し、想定を超えるものでした。
このような深刻な複合災害は、従業員やそのご家族など人命の喪失、建物や財物の損失等、直接的な損害だけでなく、直接損害を被っていない事業においても想定外の事業中断を招きました。鉄道や道路などのインフラの途絶、電気・ガス・水道の供給停止、得意先が被災したことによる事業自体の喪失等、深刻な災害であったからこそ、あらためて有事におけるBCPの効果と課題が浮き彫りとなりました。
2012年の内閣府の調査では、東日本大震災の発生時にBCPを策定していた企業でBCPが有効に機能したと回答した割合が多い項目は「災害対策本部の設置と運用」「発災後の業務遂行」「情報システムの対策」など。次に、有効に機能したという回答と不足だったという回答が拮抗したのは「従業員の安否確認」「発災後の取引先との連絡」など。また、不足だったという回答の割合が多い項目は「調達先や設備や拠点の代替」「備蓄体制」「非常用電源」でした。
今回は、東北地方や首都圏で被災した企業の苦難や混乱の様子を初動対応を中心にご紹介します。これらは、近い将来に発生すると予測される「首都直下型地震」「南海トラフ大地震」等に備えたBCP策定を考えるうえで貴重な参考例となります。
事業の初動対応についての課題
地震発生直後から直接的に発生した事業のほかに、震度5強あるいは5弱程度の揺れがあった首都圏の事業でも、初動対応ではかなりの混乱が生じていたことが分かります。
①対策本部の設置対応
- 首都圏では対策本部の設置判断がスムーズに実施できなかった
- 対策本部の設置宣言を行わなかったので、社員たちは誰の指示に従うのか戸惑った
- ビルの高層階に対策本部を設置したが、エレベーターが停止して地上との昇降は階段しかなく、移動に苦労した
- 対策本部を事務所の2階と決めていたが、大津波警報の発令を受けて避難し、別の工場の会議室に対策本部を設置した
- 社内の最も広い会議室を対策本部としたが、通信インフラ、ホワイトボード等の備品が不十分で、結局、各人の執務スペースで立ったまま対応することになった
- 家族の安否確認ができず、不安な状態のまま対策本部で任務した社員が多くいた
②安否確認対応
- 社内にいた社員の安否確認はすぐにできた。しかし外出中の社員の安否確認が遅れ、すべての安否確認ができたのは翌週の月曜日だった
- 電話番号やメールアドレスの変更を届出していない社員がいて、その社員たちの安否確認に時間がかかった
- 安否確認システムを導入しており、社員は安否確認メールが届くのを待っていたが、うまく作動せず、確認作業が大混乱した
- 震度5弱以上で安否確認システムが作動する仕組みだったが、大きな余震が何度も続いて、そのたびに安否確認の集計を実施することに無理が生じてきた
- 社員の家族も安否確認の対象としていたが、実際には家族の安否確認が遅れ、集計作業が頓挫した
③被害状況の確認対応
- 被害状況の確認手順が定めておらず、誰が何を確認するかについて混乱が生じた
- 建物倒壊の危険性について、施工したゼネコンや行政機関に診断を依頼したところ、多大な時間を要することになった
- ビル管理会社から建物の外への避難指示があり、詳細な被害状況の確認作業が遅れた
- 東北の被災地に所在する工場の被災状況を確認しようとしたが、電話がつながらず苦労した
- 発災直後はつながったが、しばらく経つとまったくつながらなくなったという声が多数あった
- ようやくつながった電話で被害状況の報告を受けたが、一部の内容しかメモができず、被害の全貌をつかむのに何度も連絡することになった
- 複数の部署から被害状況を求められることになり、被災事業所から苦言を呈された
- 被災事業所から受けた報告の内容が異なり、対策本部の情報集約で混乱が生じた
④帰宅指示と帰宅困難者対応
- 会社として統一的な帰宅指示を出すことができず、帰宅判断が部署によってばらばらとなり、一部の社員から不満の声があがった
- 首都圏で帰宅指示を受けた一部の社員が途中で大渋滞に巻き込まれてしまい、会社としてタイムリーな情報提供ができなかった
- 夜になって多くの社員が帰路に着いたという報告がなく、上司への帰宅報告ルールもなかったので不安だった
- 非常用の備蓄品が不十分で、会社に宿泊した社員に十分な水や食料を提供できなかった
- 男女社員が会社に宿泊することになったが、仮眠や休憩を取る場所が定められておらず「雑魚寝」する状態となり、一部社員から不満の声があがった
東日本大震災は、平日の就業期間中に発生したため、災害対策本部の設置に苦労した企業は少なかったですが、その一方で、参集した社員たちの情報収集や現場指揮に多くの課題を残しました。現在は、課題解決に向けていくつかの進展があります。「BCP策定ガイドブック」は、そうした経験知を取り入れながら、BCPの基本を短期間で修得できるように工夫しています。
2025.11